全音ダービー用ウクレレ(ウッディ)


まいたけさんのページ「ウクレレ工業団地」で開催されている全音キットを使ったウクレレ自作コンテスト(全音ダービー)用に作成したウクレレです。
作成するにあたって、奇抜な物、機能を工夫した物、装飾に凝った物、音を追及した物等・・どんな仕様にしようか悩みました。

私がいつも思っていることに、楽器は相性という事があります。
楽器屋でなんとなく自分を呼んでいるような楽器がブランドとか材質等というより自分に合った良い楽器だと思っています。
また、何本も所有している中ですぐ手にしてしまう物というのは、一番音が良い訳でも、一番ルックスが良い訳でも、一番弾き易い訳でも、もちろん一番高価な物とか一番有名な物でもなく、これは単に相性が良いとしか言えない物でもあります。

そんなことから、コンテストでは私よりも製作レベルの高い人達が多いので、私らしさを出すには凝った作りとか奇抜な物よりも、相性の良さそうな物、つまりなんとなく感性にしっくり来る物を作ってみようと思いました。

まあ、しっくり来るといっても人それぞれだし、色々なアプローチの仕方があると思いますが、私がとった方法は、古い家具等に通じる懐かしさを感じさせるレトロ風に仕上げること。
そして、なるべく自然で木の温かさが伝わるようにオール・ウッド製(弦を除く)にすることでした。



(スペック)
7割は全音キットを使うという事なので、交換したものはペグ、指板、ブリッジ、ブレイシングです。
ペグはバイオリン用を流用、指板は鋸歯状に加工しフレットの代用にしています。
なるべく自然な感触を得るため、ネックはオイル仕上げで、ボディはラッカーで薄く塗装してあります。
ボディ・シェイプおよびサンバーストの色合いは、個人的な好みにより戦前のギブソン・ギターを参考にしました。

フレットが金属でなくなった事により音の輪郭がくっきりしなくなる事が想定されたので、補正する狙いでXブレイシングを採用しています。
通常のラダーブレイシングに比べるとXブレイシングの方が表板の剛性が高くなり、音量は減りますが音の輪郭がはっきりするようです。
出来上がってみると、やっぱり少し詰まった音になってしまいましたが、ある意味見た目に似合ったウッディで深みのある音だとも思え、結構気に入ってます。

このXブレイシングですが、ブリッジ付近が自由に振動するように交差角度をワイドにし、ブレイシング自体はスプルース製で、形状はスキャロップ型でなく三角状にする事により質量を減らす工夫をしてあります。
また、バックブレイシングはオールド・ギブソン・ギターの様に薄くて背の高いものを胴のくびれ付近に配置しました。
ブレイシング配置のコンセプトは、ボディの下半分はブリッジを効率よく上下振動させ太鼓同様に空気を押し出し、ボディ上半分は、その空気の流れを効率良くサウンドホールから前面に出すようにする事です。

また、それに伴い、ボディの厚みはネック寄りが薄く、ボディエンド寄りが深くなるようにしてあります。
さらに、表板の下半分をサンディングして板の厚みを減らし、振動しやすい様にしています。
(Xブレイシングなので強度的には問題ないはず・・)

よく裏板の内側にはラベルが貼られますが、ラベルは音響を損ねると考え、裏板の内側は上半分だけ塗装し絵柄を描き入れました。
これには、通常木材が呼吸(自然乾燥)できるように裏側は塗装しないのですが、この部分は塗装した方が音を効率よく前面に反射するのでは?という考えもあります。

ブリッジはローズウッドで作成し、スリットで弦を止める方法でなく、穴を通す事によりクラシックギターの様に結ぶ事もできるようにしてあります。
また、通常のウクレレのブリッジはボディエンドに寄りすぎ、横幅も小さいので、ブリッジの両端を広げネック寄りに上げた形にして、ボディの中央付近が効率よくかつネジレ等のロスなく上下振動するようにしました。

指板はエボニー製で、前述のように鋸歯状に加工してあります。
これは、ウルリッヒ・ロート(元スコーピオンズ)のスカイ・ギターの1本に見られた仕様で、元は昔のヨーロッパの弦楽器の一部で使われていた手法だそうです。
実際に弾いてみると、違和感なく弾けるし、鉄弦でなければ耐久性も問題なさそうです。
また、指板のボディにかぶる部分は裏面を削り、ボディと接着せず少し浮いた形にして振動を殺さないようにしてあります。

ネックは薄目に加工し、ヘッドも薄くコンパクトにしてローズウッドの化粧板貼りです。
ヘッド形状は、ゴチャゴチャしたものより流れるようなラインにしたいと考えたので、ギャラガー・ギターをヒントにして指板エンドと合わせた形にしました。

飾りとして、ボディの表・裏、ネック、ヘッドにはウッド・バインディングを施しました。
また、サウンドホール周りは、ロープ・バインディングにしました。
これは3色の木材(チーク、マホガニー、桧)から作ったのですが、結構手間がかかり、すぐに崩れてしまうので、出来上がりは今一つになってしまいました。
裏板には、8種類の木材を使ったウッド・インレイを施してみました。
これは、アコースティック・ギター・ブック9号に裏板全面が見事な花模様ウッド・インレイの19世紀末のギターが載っていたのに触発されたのですが、こちらも出来は今一つになってしまいました。
木工加工技術が無い上に、サンバーストの色合いにこだわった結果、最初にボディ材に色をスティンしてから、インレイ等の加工をおこなったため、色がはげるので表面を紙ヤスリ等でサンディングできなくなってしまい微調整ができなくなってしまったのが原因です。

塗装といえば、前述のようにネックはオイルフィニッシュでボディはラッカーで、さらにブリッジは未塗装です。
このため、マーチンのギター等でみられるように、ボディをラッカーで仕上げた後に接着部分の塗装を剥ぎ、ネックとブリッジを接着するという方法をとりました。

ナット、サドル、ラインニングはキット付属の物を使用していますが、7割はキット使用という制約がなければ、もう少し良い材質の物に変更したかった気もします。

最後に、今は亡き最高峰のギタービルダーのダキストが、金属を使用すると音に不快な要素が混じると言って、ブリッジやテールピースを金属部品から木材部品に変更したのは有名ですが、さすがにギターの場合、ペグやフレットまで木材にはできませんでした。
もしダキストが、ナイロン弦でテンションも弱いウクレレを製作していたら、素晴らしいオール・ウッド製のウクレレを作っていたのではないかと想像しています。
また、ブリッジを大きくして効率良く上下振動させるとか、Xブレイシングで音質を変えるとか、ヘッドの質量を減らすなんてところにもダキストの影響があります。 そういう意味では、このウクレレは、私の中ではダキスト・トリビュート・モデル的な意味あいも持っています。
(・・・って、素人が1ヶ月あまりの短期間で作ったウクレレに、何を大袈裟な事言っているのだか・・)

<ギターに関する話(自作)へ戻る>