1980年製スタンダード(CMT)と1981年製スタンダード'82


70年代後半、通常は新しいナッシュビル工場で製造されていたレスポールに対して、古いカラマズー工場で製造されたのが1979年に発表されたレスポール・カラマズー(K.M)です。
同時期に、ほぼ同じ仕様でカラマズー工場で製造されたのが、いわゆるレスポールスタンダードCMTです。
こちらは通称のCMT(カーリー・メイプル・トップ)のとおり、ブックマッチのカーリー・メイプルがトップに使われているのが特徴です。
通称と書いたのは、正式名称ではなく、レスポール・スタンダード・CMTという名称は後に他のモデルにつけられた名称だからです。
なお、79年当時の楽器店の広告には、しっかりレスポール・スタンダード・CMTと書かれています。


1980年になると、ナッシュビル工場製のレスポール80(heritage80)が登場します。
グローバー・ペグ、ナッシュビル・チューンOマチック・ブリッジ、缶切りと呼ばれたカッタウェイ形状等が特徴です。
(本来は専用のトラスロッド・カバーなのですが、このギターは通常のStandardの物が付いていました)

レスポール80(heritage80)が発表されても、レスポール・スタンダード・CMTはそのままの仕様で製造されていましたが、よりオールドを意識した仕様の物が少数製造されています。
最初に紹介するのは、少し仕様が異なるレスポール・スタンダード・CMT1980年製です。

つぎに取り上げるのが、ナッシュビル工場のレスポール80(heritage80)に対するカラマズー工場からの返礼ともいえるスタンダード'82です。
スタンダード'82は、その名前の通り1982年製が多いですが、ごく少数1981年に製造されています。
これは、その1981年製スタンダード'82の1本です。
他にも2本ほど1981年製の物を見たことがありますが、いづれも製造日は同一でしたが仕様はバラバラでした。
おそらく、まだ仕様が決まっていないプロトタイプ的な時期だったのでしょう。
なお、スタンダード'82はカラマズー工場が閉鎖にともない、1983年はナッシュビル工場でスタンダード'83として製造されています。

今回は、両者を比較することにより、リイシューへ向けての試行錯誤や、レスポール80が与えたカラマズー工場への影響を見てみたいと思います。
左側が1980年製スタンダード(CMT)、右側が1981年製スタンダード'82です。

まずヘッドストックです。
CMTは当時のスタンダードと同じラージ・ヘッドであるのに対して、スタンダード'82は1弦と6弦のポストの間隔が広いスモール・ヘッドです。
ロゴは両者ともモダン・ロゴ(クローズド・ロゴ)です。
また、両者ともLespaul modelの位置は標準的です。。
ペグは、CMTがブッシュが大きいメタル・キーストーンタイプ、スタンダード'82は2コブのgibson deluxeです。
(1982年製のスタンダード'82は。メタル・キーストーンタイプのペグが多いです)
トラスロッド・カバーは、CMTは当時のスタンダードと同じ物、スタンダード'82はモデル名が書かれた物となっています。

ヘッドストックの裏側です。
CMTはボリュートつきのメイプル3ピースネック、スタンダード'82はボリュート無しのマホガニー1ピースネックです。
そして、ヘッド角度は、CMTは14度、スタンダード'82は17度です。
また、CMTのシリアルは黒インク、スタンダード'82は金色のインクで刻印されています。
(なお、通常のCMTのシリアルは単なる刻印で、ネックやボディ・バックはチェリー単色でなくサンバーストに塗られています)

カッタウェイ部分です。
両者とも、ボディ・バックは1ピースのマホガニーです。
また、両者とも、バインディングの幅が均一なタイプです。
(通常のCMTは、カッタウェイ部のバインディング幅がボディトップのカーブに合わせて変わるタイプです)

コントロールキャビティです。
ピックアップ・ケーブルのルーティングは、両者ともロングドリルによる丸い穴です。
また、両者ともシールド・プレートがありません。
CMTはポットを交換した形跡があるので、そのときに外したのかもしれません。
(スタンダード'82のポットも交換された可能性があります)
なお、写真では解りづらいですが、スタンダード'82は鉛筆書きで82の文字が書かれています。

ピックアップ・キャビティです。
両者とも、ピックアップ・キャビティからネック・テノンは見えません。
ピックアップは、CMTは刻印ナンバード、スタンダード'82はナンバードPAFといわれるタイプです。
(スタンダード'82のピックアップは交換されているかもしれません)
両者とも、大柄で強烈なフレイムが出たメイプルを使用しています。
(通常のCMTより塗装もオールド風のサンバーストになっています。一方スタンダード'82ではよく見かけるナチュラル・フィニッシュです)
また、スタンダード'82の指板材はハカランダのような、黒くてきめが細かく油分が多い物が使われています。

このように見ていくと、1979年のレスポール・カラマズー(K.M)やCMTは、おそらく限定バージョンの特別仕様であり、特にリイシューを意識した物ではなかったのでしょう。
1980年にリイシューを意識したナッシュビル製のレスポール80(Heritage80)が登場したことは、本家カラマズーの職人を刺激したのだと思います。
既に、カラマズー工場ではstrings & things等のオーダーによるリイシュー・モデルを製造した経験もあったことから、カラマズー版のリイシューを意識したモデルを作ろうとして、レスポールCMTに手を加えて試行錯誤したのではないでしょうか。
(ここで、リイシューを意識したモデルと書いたのは、当時はオールドとの差別化もあり、再現を追求したのでなく独自の仕様を盛り込んだモデルという意味である)
そして、1981年のプロトタイプを経て、1982年に仕様を固めたスタンダード82が登場したのだと思います。
その後、さらなるオールド復活の要望に答える形で、1983年に再現度を増したレスポール・リイシューが登場することになります。

余談ですが、こちらが本当のスタンダードCMT(1987年製)です。
ニューヨークのサムアッシュ楽器店のオーダーで1986年から1989年に製造されました。


<(おまけ)レスポール・リイシューあれこれ>