58ヴィンテージと59ヴィンテージ

結構、問い合わせが多いのが、当時の日本ギブソン(荒井貿易)がオーダーした58ヴィンテージ。
58ヴィンテージは1982年当時には、単にレスポール”ヴィンテージ”(あるいはレスポール”ナイストップ”)と呼ばれていました。
ここで紹介するモデル以外にも、カスタムショップ(ナッシュビル)製のシリアルナンバーがNから始まる物やレオズ・ヴィンテージも”ヴィンテージ”と呼ばれていたそうです。
おそらく、日本ギブソンがオーダーした”ヴィンテージ”が好評だったため、急遽、他のリイシュー・タイプも”ヴィンテージ”として輸入したのでしょう。

”ヴィンテージ”が好評だったため、日本ギブソンがオーダーして翌1983年に発売したのが59ヴィンテージです。
59ヴィンテージが定価59万円だったのに対して、定価58万円だった”ヴィンテージ”は、区別するために58ヴィンテージと呼ばれるようになりました。
59ヴィンテージも好評なため、アメリカ国内で同じ1983年から販売がはじまったレスポール・リイシュー(LesPaul Reissue/Flametop)も輸入され、59ヴィンテージとして販売されました。
58ヴィンテージは特に数が少ないためか、後にムック本等で59ヴィンテージを58ヴィンテージ、初期レスポール・リイシューを59ヴィンテージと間違えて記載されたことがあり、混乱が生じました。
今回の比較対象は、正真正銘の59ヴィンテージです。

まずヘッドストックです。
(左側が58ヴィンテージ、右側が59ヴィンテージです)
両者とも、1弦と6弦のポスト間隔が広いスモール・ヘッドです。
58ヴィンテージはモダン・ロゴ(クローズド・ロゴ)、59ヴィンテージはドットレス・アイといわれるオープン・ロゴです。
(通常の59ヴィンテージは、iにドットがあります)
58ヴィンテージのLepaul modelの文字は通常より上にあります。
58ヴィンテージのペグは通常の1コブgibson deluxeですが、59ヴィンテージは2コブのブッシュ側からナットで締めるタイプです。
おそらくカラマズー工場ではレフトオーバーの2コブgibson deluxeの在庫があったため、それを1コブに加工したのですが、ナッシュビル工場にはレフトオーバーの在庫が無かったため、新たにブッシュ側からナットで締めるタイプを使用したのでしょう。
(通常の59ヴィンテージは、ブッシュ側からナットで締めるタイプで1コブの物が多いです)

ヘッドストックの裏側です。
両者ともボリュート無しのマホガニー1ピースネックで、ヘッド角度は17度です。
58ヴィンテージは、ヘッド裏にシリアル等が書かれていません。
59ヴィンテージは、9の後にスペースを空けて4桁のシリアルが小さめのフォントでスタンプされています。

カッタウェイ部分です。
両者とも、カッタウェイ部は均一な幅のバインディングで、メイプルが見えています。


カラマズー製(58ヴィンテージ)とナッシュビル製(59ヴィンテージ)の違いがよく判る部分です。
カラマズー製のはネックジョイントが17フレットより若干18フレット側なのに、ナッシュビル製はちょうど17フレットでジョイントされています。
また、カラマズー製のサイド・ポジション・マークが大きめの鼈甲柄なのに、ナッシュビル製は小さくて黒いサイド・ポジション・マークです。
さらに、バインディングの厚さにも違いが見られます。
そして、58ヴィンテージの指板はローズウッド製なのに対して、59ヴィンテージの指板はエボニー製です。
なお、フレットエッジ処理の違いは、58ヴィンテージのリフレットによるものと思われます。

コントロールキャビティです。
58ヴィンテージはキャビティの縁の部分に通常の8桁シリアルが刻印されていいます。
また、59ヴィンテージでは、弦アースを取るための配線が省略されています。
(シールド・プレートがあるので影響は少ない?)
ピックアップ・ケーブルのルーティングは両者ともロングドリルを使った丸い穴ですが、59ヴィンテージの方が1.5倍ぐらい穴が大きいです。
ポット・デイトは、58ヴィンテージが1980年と1981年で、59ヴィンテージは1982年です。

ピックアップ・キャビティです。
ピックアップは両者ともニューPAFと言われるもの。
58ヴィンテージには、前のオーナーが入れたものかもしれませんが、共振防止のスポンジが入っていました。
59ヴィンテージはスプリング部分用の深いルーティングと同じぐらい、ピックアップ・キャビティ自体が深く掘られています。



<参考>
59ヴィンテージ売り出しの広告(ヤングギター1983年4月号)

茶色成分の無い黒い指板の色から、エボニー材だという事が判ります。
ヒストリック・コレクション等の再現度を知っている現在になってみると、「1959年製('58〜'59の中でも特に選んだ)をもう一度つくった」というコピーが虚しいですね。

ヴィンテージ(58ヴィンテージ)の広告
ヴィンテージ(58ヴィンテージ)の売り出しの広告を探したのですが、みつかりませんでした・・・何故かヴィンテージ(58ヴィンテージ)発売以降も、日本ギブソンの広告は(HERITAGE)レスポール80ばかり、在庫処分したかったのでしょうか?
代わりに楽器店の広告を探したのですが、小さい写真ばかり・・・唯一白黒だけど大きく写っていたのがコレ(Player1982年5月号)。

アッパーリンクでは無い通常のクローズド・ロゴなので、レオズ・ヴィンテージやシリアルがNから始まるカスタムショップ製ではありません。
もちろん、ナッシュビル・チューンOマチック・ブリッジやグローバー・ペグではないので、レスポール80では無いです。
また、17フレットより若干18フレット寄りのネック・ジョイント位置やサンバーストの雰囲気から、カラマズー製だと判ります。
(この時期、ナッシュビル製のサンバーストは、レッドとイエローのグラデーション幅が狭い)
というわけで、ほぼ私の所有機と同じですが、70年代によく見られた大きいブッシュのついたペグ(ひょっとしたら金属製ツマミ?)が異なっています。
ペグ交換?、個体差?、それとも違う種類のリイシュー物だったのでしょうか?

ペグの違いが気になったので、別の楽器屋の広告で小さく写っていたのを拡大したのがコレ(ギター・マガジン1982年6月号)です。

こちらは、私の物と同じ小さなブッシュで1コブ・クルーソン・ペグとなっています。
もちろん、アッパーリンクでは無い通常のクローズド・ロゴ、ABR-1ブリッジ、Les Paul modelの文字が上にある等も同じです。
なお、一緒に写っているレスポール80は、グローバー・ペグ、ナッシュビル・チューン・O・マチック、缶切りと呼ばれたカッタウェイ形状等、こうして見ると全然違いますね。
ちなみに、指板の色を見れば、レスポール・ヴィンテージとレスポール80トラ目(スタンダード)はローズ・ウッド材、レスポール80タマ目(エリート)はエボニー材なのが判ります。

それ以前のレスポール・ヴィンテージの広告としては、プレイヤー1982年4月号の広告があるのですが、未だ写真が用意できなかったのか?グローバーペグで缶切り形状のカッタウェイのレスポール80らしい写真を使ってありました。
でも、その広告の説明文は興味深い内容です。

「カラマズー工場に残された20数年前のジグをそっくりつかい」という文言が嬉しいですね。
レスポール80は、寸詰まりのボディや缶切りと言われたカッタウェイ等、形状が違っていて評判が今一つでしたから。
仕様で、「58タイプのネックジョイント」と書かれていますが、もちろんディープ・ジョイントではありませんでした。

余談ですが、当時の雑誌の楽器店広告をみると、59ヴィンテージでオープンOロゴや9から始まるシリアルナンバーの採用が画期的だったことが判ります。
言い換えれば、それまでのヴィンテージ(58ヴィンテージ)やレオズ・ヴィンテージ等では、ロゴやシリアルナンバーが違っていた事が判ります。
もっとも、9から始まるシリアルナンバーの採用はギター・トレーダーの方が若干先でした。



<追記>
かなり、改造されていますが、シリアルがNで始まるカスタムショップ(ナッシュビル)製を入手しました。
これも1982年製で、当時は”ヴィンテージ”と呼ばれていた物のひとつだそうです。

なんと!前オーナーによって、バックにコンター加工が施されています。

ヘッドです。

ロゴはクローズのOとNが上部でつながるアッパーリンクと言われるタイプです。
ヘッド裏にはNで始まるシリアルとカスタムショップのロゴがあります。
Nは日本ギブソンの略ではないか?という説があります。
(ちなみにBirstGang本ではノーマンズ・レア・ギターズのオーダー品?と書かれていますが、ノーマンズのものはNRGから始まるシリアルです)
元々、ペグはブッシュ側から絞めるタイプだったのを、通常のクルーソン・タイプの物に交換してあります。


カッタウェイ部です。
他のリイシュー同様、均一な幅のバインディングで、メイプルが見えています。



コントロール・キャビティです。
ここいらへんもパーツが交換されているようです。
ピックアップの配線は、大き目のロングドリルによる丸い穴です。


ピックアップ・キャビティです。
ナッシュビル製らしく、ルーティングが深いです。


なお、このNから始まるシリアル・ナンバーの物には、1983年製のポットが着いている物もあり、”59ヴィンテージ”と製造時期が重なるため、日本ギブソンのオーダーとは考えにくいです。
(59ヴィンテージには1982年製のポットが着いているものもあり、1983年3月の雑誌広告に登場しているので、オーダー自体は1982年だったと思われます)





<(おまけ)レスポール・リイシューあれこれ>